初めての尊厳の砦

初めての尊厳の砦のページを説明

新着記事一覧 〜最新の記事はコチラです〜

初めての尊厳の砦

2011年8月8日


介護保険施設やグループホーム等に比べて平均要介護度が低いのが私の勤めるデイサービスです。
身体介護も比較的少なく、夜勤もない。
求職者もこのような点でデイを希望される方が多いとか。。。


このような点は間違ってはいないと思います。
しかし、それが“楽”とか“簡単”ということではないはずです。
デイサービスに勤めている中でもたくさん難しい場面にであいます。


今日はその中の一つを取り上げてみます。


その場面は『その人の排泄行為に対する初めての介入』です。


デイサービスは要介護度が軽い方が多いです。故に新規でいらした時は排泄が自立していらっしゃる方が比較的多いです。
しかし、利用されている間に、様々な理由で自立した排泄ができなくなっていかれます。

生まれて初めてオムツをした。
生まれて初めておしっこ(うんち)を漏らした。
生まれて初めて他人に排泄物を見られた。


生まれて初めて下の世話になった・・・


排泄は『尊厳の砦』と言われれますが、その砦を初めて崩す、崩してしまう、崩れないように必死にもがいている本人と向き合う、という場面がデイサービスでは多いように感じます。

グループホームや特養では、尊厳の砦に他人として“最初”に触れる機会は少ないのではないかと思います。

その尊厳の砦に他人である私たち介護職が“最初に”どのようにして向き合っていくか・・・今日は答えのないその取組を書いてみたいと思います。



Tさん80代女性。独居、要介護1。脊柱管狭窄症をお持ちの方ですが、ADLはほぼ自立です。うちのデイサービスには4年以上通われています。ケアマネも自事業所です。
関西地方で生まれ、裕福な家庭で育ち、品も教養もある方です。ご性格は大正の日本妻という方で、礼儀作法に厳しく、家父長制度内における女性の働きぶりや生き方に厳格な方です。
この1年くらいで、少し記憶障害が見られ、言った言わない、という些細なもめごとがあったりしました。ご本人も「ボケてしまってきているかもしれない」と落ち込んだ時期もありました。

そんなTさんです。


デイの活動スペースで強い尿臭を感じた私はその発信源を探しました。
そして体操を終えたTさんが座っていた座布団が濡れていて、まさにその臭いがしたのです。

あまりの尿臭だったので、一人の女性スタッフBがTさんに声掛けをし、介入を試みたようです。

Tさんは強く拒否。「大丈夫ですから!!」とBはトイレから追い出されたようです。

スタッフ間の共有をする前に現場同士で介入を判断することはよくあります。事件は会議室で起きているのではないので。
しかし、スタッフBは経験豊かな者ですが、今回のTさんに対しての介入は軽率だったかもしれません。




その直後にちょうどサービス担当者会議がありました。

TさんはデイサービスでスタッフBから介入されたことをお話しされました。


「私はどうしてあんなことをされたのか意味がわかりません!」
「大丈夫だっていうのに、なんでパットを替えろなんて言うんですか!!」
「私は毎朝自分で交換しています!!」


Tさんの語気は次第に荒くなり、普段見たことがないような怒りの表情でお話しされました。



Tさんの状況をもう一度整理します。

・Tさんは毎朝“自分”でパット交換をされている
・パットは吸収するから、一日一回交換すればよいと思われている
・Tさんは何回も交換することはもったいないと思っている
・Tさんは嗅覚がない。過去のなんらかの持病らしい(詳細は不明)
・Tさんのパット内への尿失禁は機能的病理的原因ではありません

⇒自分でちゃんと管理している排泄なのに、いきなり「交換した方がよいですよ」とスタッフBに言われたことに納得がいかず怒っている。


これらを踏まえてスタッフ間で色々な意見が出ました。


・Tさんのお人柄を考えて、少しずつ、パット交換をした方がよいことをお伝えしていくことでご本人が納得していくことが大切ではないか
・パットを夜間用など吸収量が多いものに変えるよう提案してはどうか
・もう少し様子を見たほうが良いのではないか・・・


Tさんのお人柄とプライドの高さを考えて、スタッフからこのような意見が出ることは当然と言えば当然でした。

しかし私は釈然としません。次のように意見を出しました。

「そもそも、僕ら職員が介入の必要性を感じたのは他でもない、フロアに広がるくらい強い“尿臭”です。しかし、Tさんはそれがわからない方です。それを伝えないで、パットを変えたほうが良い等といってもTさんが納得されるはずもありません」
「みなさんはTさんにそのことを伝えることから逃げているだけじゃないんですか!?Tさんの尊厳の砦を盾に、自分たちの説明責任から逃げているだけではありませんか!?」


別スタッフ
「じゃぁ、kinsanはTさんにどう伝えるの?」


「言い方はその瞬間に一番適切だと思う言葉で伝えていくしかありません。でも、尿臭のことを絶対に伝えます!!」

スタッフ
「それを伝えられた時のTさんは傷つくと思いませんか?」


「これから老い、死を迎えるであろうTさんは、尿だけじゃない、便だって我々にゆだねる日がきます。入浴介助だってはじまるでしょう。他人にゆだねていくんです。今はその最初の入り口です!僕らTさんの苦しみを共に分かち合っていかなきゃいけないでしょ!それが介護職でしょ!共感とか言ってるんだったら、一緒に苦悩しないでどうするんですか!逃げちゃだめでしょ!!!!」
(利用者のことになると、若干冷静に話せないのが私の悪いところです・・・)


スタッフ
「それでも急に伝える前にもう少しアセスメントと話し合いを重ねませんか?」


「いつ判断するんですか?デイでTさんの隣に座っている人が『あんた臭いわよ』ってTさんに言っちゃったらどうするんですか!?そっちこそ尊厳崩壊じゃないですか!」

スタッフ
「しかし・・・」


「じゃぁ僕が伝えます!!!」

スタッフ
「男性のkinsanに言われた時の、Tさんの気持ちを考えてみたらどうですか!」


「じゃぁ、女性!お願いしますよ!!!!!」


一時間くらい話してもまとまらず・・・



そして翌週突然決まりました。

ケアマネからの連絡でした。

「Tさんはデイサービスご利用中に、女性スタッフのHさんを指名してパット交換のお手伝いをしてほしいとおっしゃいました」


一同
「えっっっっっ!!!???何故!!!!」


ケアマネ
「Tさんの(遠方に住む)娘さんが『お母さん臭いからちゃんとパット交換しなさい!』って言われたそうです・・・・」


一同
「お、お〜〜〜っ・・・む、む、むすめさん・・・・ですか・・・」


ケアマネ
「Tさんはよろしくお願いします、と良い顔で納得されてました」



今回はなんとも意外な展開で着地できました。

しかし、初めての排泄介入という際、毎回このようにスムーズではありません。
ご家族がご本人と不仲で、排泄ケアはデイに丸投げというケースもあります。
デイで初めて便失禁してしまい、私たちの介助を受けながら茫然とされていた方も、涙を流す方もいました。

高齢者、要介護者はリハパン、オムツ、パットが当たり前かもしれませんが、それを受け入れる時のご本人、受け入れられないご本人、そして家族。。。
それらに私たちはいかに介護専門職として関わっていくか。
本当に難しく、絶対的な正解が無い瞬間だと思います。

そして、この尊厳の砦とその介入については、スタッフそれぞれがまた多様な価値観を持っているということも大きなポイントです。
良い悪いではない。私の意見もスタッフの意見も一長一短です。


大切なのは、その尊厳の砦がご本人にとってどのようなものであるか、一緒に住むご家族や周囲の人にとってどのような意味があるのか、その相互作用を見極めながら働きかけていくことが大切です。

そして、異なる価値観を持つスタッフが同じ方向を見ていくために、事業所ごとの理念の浸透が大切になってくると思います。
ややもすると、意見や価値観の違いが人間性の批判になってしまいがちな現場の話し合い。自分たちが何故、なんのために意見を交わすのかを見失わないためにも、この理念の浸透が大切ですね。


少しでも多くの方にこの記事を見ていただけるようにランキングへのご投票よろしくお願いします!あなたの一日ワンクリックの応援、感謝いたします(>o<)
にほんブログ村 介護ブログへ
banner2.gif


介護の専門性新提案の初めての尊厳の砦のリンクについて

介護の専門性新提案の初めての尊厳の砦のリンクについて
リンクを自由に設置して頂いて結構です。
宜しければ以下のタグをご使用下さい。
この記事へのコメント
自分ならどうしただろう・・・と読ませていただきました。

排泄機能の低下で失敗が増え、職員が介入するようになったケースは
私の経験ではさほど多くなく、そのように移行していった場合も
職員の介入はスムーズに行われていきました。

そこには利用者さんの諦めもあったのかもしれないと思います。

諦めではなく、そういう所であると納得している場合もあります。
(私たちの日常でも、医師に身体の隅々を見られ、触られることは
割り切っているので)

事例を読みながら、私自身、尿臭のことをズバリご本人に言うことが
できるだろうかと思いましたが、kinsanのご指摘の通り、他の利用者さんから
言われることを考えたら、職員が先にお伝えすべきだと思いました。

その利用者さんの場合は、介助する側がきちんと向かい合い、
真剣に排泄に関わりたい気持ちを伝えればご理解されると感じました。 

結果は意外な展開になりましたが、職員のHさんを指名されたことに
むしろ興味を持ちました。なぜHさんなのか。

私の施設でも、入浴介助や爪切りで職員を指名する方がいらっしゃいます。
大変、羞恥心の強い方で、入浴や爪切りに関しては、気ごころの知れた、
その方のお眼鏡にかなった職員でしか受け付けてくださいません。

信頼関係を築ける、築けないというのは、何が違うのか?

そのあたりにも「尊厳の砦」の中に入れてもらえるヒントがあるとも
感じました。
Posted by げんき at 2011年08月11日 22:03
げんきさんコメントありがとうございます。

施設などは、今の高齢者の感覚では“養老院”に入るという感覚が残っていると思います。
養老院=そういうところ、入ってしまうことの中にすでに諦めが含まれているのかもしれませんね。(それではいけないと思うのですが)

私が関わる在宅の高齢者はまだまだ自分の城があるわけで、そういう意味で、環境による諦めは施設の入居者と異なるものかもしれません。ましてやTさんはご自身で生活しているという自負があるでしょうし。

正解はありません。ただ、真摯に向き合っていくのみ。しかし、誠意をもって体当たり、だけではなく、チームで十分に検討し現場では体当たりで利用者に向き合っていく準備が必要ですね。そのことなく、単に職人技のように、ベテランがうまくやる、というのでは後進は育ちませんね。


さて、Hを指名したこと、本当に私たちも意外でした。良いスタッフですが、なぜ他のスタッフではなくHなのか???利用者のことを理解しているなんて言えないとつくずく思います。わからないが前提ですね。

信頼関係は相性などに左右されてはいけない。どうすればどんな人とでも信頼関係が築いていけるか。それを考えながら介護をしたいと思います。

現場の中に色々なヒント転がっていますね。
Posted by kinsan at 2011年08月12日 07:37
私は、若年性認知症の夫を16年介護をして看とりました。

ロングショート一年間使う中で、就寝やお昼寝はドアが閉められその中で
ベットから落ちたり、排尿をしたりして30分40分放置されていました。
認知症の人が安心して暮らせると現実はまだまだと思います。

尊厳は、自尊心本当ですね。

夫は、介護者の方達から本当に寄り添って貰い、私も亡くなった夫も感謝の
一言です。

医療も介護も人手不足の中で介護家族が尊厳を要求しても密接に見て来た私は、
やっぱり国の施策が進んでいない事が一番の原因と思っています。

認知症が進んだ寝たっきりの方の役割は、そこに居て貰うだけで周りの人が
どう支えて行こうかと考え行動に移す。みんなに考えさせる勉強させる役目が
あると思っています。そして家族が当事者から支えて貰っているのです。
Posted by オッティー at 2011年10月15日 20:52
オッティーさんコメントありがとうございます!
ご主人を長年介護されたとのこと、本当にお疲れ様でした!

私たち介護職を取り巻く環境は決して良いなのではないかもしれませんが、目の前の利用者さんやご家族にはできうる限りの介護をしなければならないと思っています。
施策が遅れていることもあるかもしれません。ただ、できることはやることがご自身の生活に足を踏み入れさせていただいているわたしたち責任だと思います。

とはいいつつも、実際は記事のように利用者さんの尊厳を傷つけてしまっている日々です。
恥ずかしく、申し訳なさでいっぱいな方は私にも沢山います。

ご家族からのコメントは本当に嬉しく、また身が引き締まる思いです。

今後もぜひ遊びにしていてください。

ありがとうございました!
Posted by kinsan at 2011年10月18日 13:11
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。