あなたは養老院に入るんですよ、と本人に伝えた日

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あなたは養老院に入るんですよ、と本人に伝えた日

2014年4月26日

ユアハウス弥生では「自分の介護に説明責任を果たす」「相手に嘘をつかない」という方針があります。
しかし、言うは易く行う難しであり、私も日々の現場の中でどれだけ実践ができているだろうかと反省の毎日です。
特に認知症状をお持ちの方に対して、説明責任を果たせているか、これまた反省の毎日です。

しかし、認知症状をお持ちの方は自分の中に起きている変化を自覚しており、混乱や不安を抱え、困っているということはすでに知られていることです。
そうした中、私たち介護職が認知症状をお持ちの方に対する人的環境として、相手を容易に騙すような不適切な環境となるか、その困惑に真摯に向き合う環境となるかで、認知症ケアというものの一つの在り方が問われるのだと思います。

私はこれまで、認知症状をお持ちの方の中で「あなたは認知症ですよ」と伝えさせていただいた方が三人いらっしゃいます。
介護職として10年近く働いていますが、こうしたことをお話しできた方はまだ三人だけなのです。しかも、三人ともユアハウス弥生に転職してから出会った方でした。


今日は、先日こうした向き合い方をさせていただいた3人目の方の体験を通じ、それをスタッフで共有して深めたことについて体験と共有の前後半2回にわたって書いてみたいと思います。




Aさん90代女性、要介護3、認知症高齢者の日常生活自立度Ubほどで言語コミュニケーションはとることができます。自営業をされているご主人と二人暮らし。遠方に住む娘さんが週に数回通い介護をしています。
Aさんは家業を手伝ってきた生活歴が人生の大半で、自宅を拠点としてご主人を助ける日々を送っていました。
しかし、数年前から認知症状が現れ始め、ご主人のお仕事に支障が出てきてしまうようになりました。そうして介護サービスの利用につながったのでした。

利用開始当初は家業が心配で自宅から外へ出ることができず、訪問を中心に関係を築くところからスタートしました。
少しずつ通いもできるようになりました。ご主人の介護負担も増してきた頃から宿泊の利用も少しずつできるようになりました。
最近では、ご自身で納得の上、宿泊されることも増えて、在宅生活を継続することができていました。

ところが、ご家庭の事情により区外への引っ越しが決まり、それを機にご家族はAさんの施設入所を決めたのでした。

私は、ご本人の今後の施設生活のためにも、またご本人の尊厳の点からも、ご家族に入所する旨を必ずAさんご本人に伝えるべきだと助言し、ご家族から入所の前日に伝えることが決まりました。


そんなAさんがユアハウス弥生の最後の宿泊利用をされた日のことです。偶然にもずっと関わらせていただいていた私が夜勤の日でした。

普段の宿泊では夕方に少し自宅が気になるAさんですが、夕食後には家事に取り組んでくださり、宿泊も納得されて21時ころにはお休みになるのがいつものパターンでした。


しかし、利用最終日のAさんは今まで私が見たことがないような混乱が現れたのです。
自宅へ帰りたいということはおっしゃらないのですが、成人しているはずの娘さんたちが帰ってくるとか、昔家業を手伝ってくださった方に食事をつくらなければ、とおっしゃり、施設内を右往左往していました。
他に宿泊されている方たちがお休みになってからは、その混乱が次第にエスカレートし、表情も険しくなり、目が吊り上り、口調も激しく、キツイ物言いになってきました。
全てにおいて、私は今まで見たことがないようなAさんの状態に「伝えられていないけれど、引っ越しのことや施設入所のことなどを肌で感じているのではないだろうか」という考えが頭を過りました。

お話をゆっくり聞いたり、飲み物を出したりしましたが、一向に気持ちは収まらず、さらに、ご本人の話が支離滅裂になっていき、普段のコミュニケーションが全く通じないAさんに私も戸惑ってしまいました。


「帰らなきゃいけないんです!」「ここから今すぐ出してください!」「どうして出してくれないの!?」


エスカレートするAさんの状態はピークに達し、玄関のドアを叩き出したり、大声で叫んだり、絶叫して助けを求めるなどされました。

「Aさん、私に何かお助けできることはありませんか」という私の質問に対して、Aさんはすがるように、また悲鳴にも似た声で言いました。


「お願いです!お願いですから、真実を教えてください!なぜ私は帰れないんですか!?私の身に何が起きているのか真実を教えてください!!」


私はこの言葉を投げかけられて、遅すぎるのですが、ようやくAさんの苦悩に本気で向き合う決心がついたのです。


私「Aさん、真実を知りたいのですね。なぜ帰れないか、Aさんの身に何が起きているか、私が知っている範囲でお伝えします。よろしいですか?」

A「ありがとうございます!教えてください!」

私「私が伝えることはAさんにとって受け入れがたいことかもしれませんし、酷く傷つけることになりますがよろしいですか?」

A「かまいません。ご存知のことを教えてください!」


私「わかりました。Aさんはなぜ帰れないか、ご自分の身に何が起きているのかを知りたいということでよろしいですか?」

A「はいそうです」

私「Aさん、ここはどこですか?」

A「ここは仕事場です」

私「いいえ、ここはユアハウス弥生という介護の施設です。私はここで働く介護福祉士の金山と申します」

私は介護福祉士の資格名が入った社員証を見せました。そして、自治体から出されている事業所の指定通知書も見せました。

私「私は介護の仕事をしている者であり、今ここにいるこの場所は介護を提供する施設なのです。ご理解いただけましたか?」

A「それはわかりました。あなた、ここに介護福祉士って書いてますもんね。大変ですね。私も昔ご奉仕で体が不自由な人とかちょっと頭がおかしい人とかお世話したことあります」

私「Aさん、Aさんはなぜ今、介護の仕事をしている私と、介護の施設にいらっしゃるかわかりますか?」

A「わからないです。なんででしょうか?」

私「それはAさんが、介護を必要とする認定を受けている要介護高齢者だからです。Aさんは私たちから介護を受ける立場の方なのです」

A「そんなわけないでしょ(笑)私は介護のお世話になるようなことないですよ。介護の必要がないです。体も丈夫だし、なんでも一人でできますから」


私「Aさん、私とAさんが出会ったのはちょうど一年前です。ご家族からご相談をいただきました。そして私たちはAさんに介護が必要であると考えて、契約をさせていただきました」

A「そんなうちの人が勝手なことして、私は何も聞いてないですよ」

私「いいえ、私たちは契約する時にご挨拶させていただいていますし、どうして私達が関わらせていただくかのご説明もAさんにしましたよ」

A「そんなこと知りません。それに私は介護が必要な人間ではありません」

私「覚えていないんですよね?」

A「覚えていないも何も、そんなことは一切ありません。作り話ですよ(笑)」

私「覚えていない状態がAさんの介護を受ける理由です。Aさんは恍惚の人をご存知ですか?」

A「知ってますよ」

私「Aさんはその恍惚の人なんですよ。昔でいう痴呆症なんです。だから覚えていらっしゃらないんです」

A「あっはっはっは、そんなわけないでしょ・・・私は痴呆じゃありません」

私「Aさん、今日は何年何月ですか?」

A「今日は・・・えっと・・・10月の・・・25だったかしら」

私「何年ですか?」

A「えっと・・・昭和、何年だったかしら・・・28年?、じゃなかったかしら」

私「Aさんはお子さんはいらっしゃいますか?」

A「いますよ、4人・・・じゃなかった。あれ、孫が4人?・・・じゃなくて、、、」

私「今どちらにいらっしゃいますか?」

A「さっきまでそこにいましたよ。部屋に帰ったのかな。あれ、うちに帰ったのかしら?」


私「Aさん、私は今とても失礼なことを言っています。Aさんをバカにしていると思われるかもしれません。ごめんなさい。でも、今混乱されていませんか?わからなくて不安ではないですか?」

A「いえ、失礼ではないですよ。混乱はしてないですけど。忘れちゃうのよね。だっておばあちゃんですからね。年取ったらみんなそうですよ」

私「私は、Aさんから真実を教えてほしいと言われました。ここから帰れないということの理由を教えてほしいと言われました。だから失礼を承知でお伝えします」


私はAさんの介護保険書と医師の意見書をAさんに見せました。


私「Aさん、ここにAさんの名前が書いてありますね。文京区役所から介護保険被保険者証って。要介護3て書いてありますよね。そしてこれがご存知のあのお医者さんの名前です」

A「あぁ、○○先生ね、この病院は知ってますよ」

私「ここに書いてありますね。先生の字で・・・アルツハイマー型認知症って。痴呆症のことを今は認知症って言いますけど、アルツハイマーなんですよ」

A「本当だ、書いてありますね・・・私、アルツハイマーなんですか・・・」

私「・・・ごめんなさい。わかっていただけましたか?本当に失礼なことばかり言ってごめんなさい。。。」

A「でも、じゃぁ、治さなきゃね」

私「Aさん・・・今、認知症は治りません。治せたらノーベル賞です。Aさんは治らないんです。。。だから、ご主人が私たちのところに相談に来たんです。妻がボケてしまったから介護してくださいって・・・」

A「主人が・・・」


A「でも、本当のことを話してくれてありがとう。私ね、最近ずっと思っていてね、主人とゆっくり話したいって。でもなんだかんだ忙しくて、結局話せなくて。だからゆっくり話せて本当に良かった。あなたがいてくれたら心強いですよ。うれしいです。」

私「Aさんに謝ることがたくさんあります。Aさんは時々こちらに泊まってくださるのは覚えてますよね?私たち、みんなAさんに嘘をついた時もありました。ご主人は出張だからとか、そしてAさんをここに泊まらせることしました。嘘をついたんです。本当にごめんなさい」

A「大丈夫ですよ。わかってましたよ(笑)」

A「でも、本当にありがとう、これからも宜しくお願いします」

Aさんはそう言って私に深々と頭を下げられました。


私は、我慢していた何かの糸が切れてしまいました。


私「Aさん・・・Aさん、ダメなんですよ。これからはもうないんです。僕たち今日でお別れなんです。。。もうさよならなんです」

A「えっ、なんで?なんでさよならなんですか?」

私「Aさん・・・来週、養老院に入るんですよ。もう決まったんですよ」

A「えっ!!養老院!?私は養老院になんて入りませんよ!なんでそんなこと。一体だれがいつ決めたんですか!?」

私「ご主人が決めました。ご主人がAさんを養老院に入れるって決めたんです」

A「私は入りたくないわ!絶対に。なんで私が入らなきゃならないの!?私は主人と離れたくないのよ。主人も私から離れたくないはずよ。主人は優しい人、そんな酷いことする人じゃない!」


私はこらえきれなくなりました。。。Aさんの戸惑いと、自分への罪悪感と、そしてAさんのご主人に対する深い愛情を聞かされて・・・


私「・・・Aさん。ごめんなさい。。。Aさん、だから、Aさんは痴呆症なんです。アルツハイマーなんです。忘れてしまう病気なんです。それでご主人が疲れ果ててしまっているんです。ご主人も断腸の思いだったと思います」

A「そんな、私はアルツハイマーなんかじゃ・・・(医師の意見書を見る)。なんで主人は何も言ってくれなかったの!?」

私「言えなかったんじゃないですか。私も妻がいますけど、きっと言えない。だって、最愛の人が自分を苦しめているだなんて言えませんよ。Aさん逆の立場だったら言えますか?」

A「・・・言えないです。言えないですね。。。私が主人を苦しめていたのね」

私「Aさんが悪いんじゃない!ご主人も悪くない!誰かが悪いんじゃないんです。全部病気が悪いんです。介護なんて、介護なんてなければいいんです。僕ら出会わなければそれで良かったのに、Aさん、ごめんなさい」


A「そんな、泣かないで、ありがとう。ちゃんと話してくれて。真実を話してくれたのはあなたが初めてよ。本当に感謝してます。私達こんなに仲良しになれて嬉しいわ。だからこれからも宜しくね」

私「だから今日でお別れなんですってばーーーっ!Aさん養老院に入るんですってばーー」

A「お願い、そんなに悲観しないで!顔をあげて、元気出して!私は大丈夫よ!ありがとう。そんなに想ってくれて。私、頑張るわよ。養老院でちゃんと治療しますから!ちゃんと治して帰ってきますよ!」


もう私は二の句が継げず、逆に私を励ましてくださるAさんの言葉を聞くたびに胸が苦しくなりAさんの前で泣いてました。


一通り泣き終えた私が顔をあげると、ニコニコしたAさんがいました。


A「ごめんね。こんなに長い時間付き合ってもらっちゃって。あなたの時間奪っちゃったわね」

私「Aさん。寝ましょうか!」

A「そうよ!寝ましょう!お互い憔悴しきっちゃったわね。おやすみなさい」



そうして部屋へ戻ったAさんは、30分後には会話の内容を忘れていました。

翌朝のAさんは穏やかないつものAさんでした。

そうして、私は変わらない笑顔のAさんに手を振って送迎車を見送ったのでした。



私は、こんな対応が良かったのか全く分かりません。意味があったのかも正直自信がないです。
後半はほぼケアされていたのは私の方でしたし。

しかし、ご本人の「真実を教えてほしい」という言葉に自分なりに向き合ったものでした。

このAさんとの体験と、以前の体験「私は認知症ですか?」という問いに向き合っても交えて、スタッフで「利用者さんに向き合うとは」「説明責任を果たす」とは何かを共有しました。それは次回の記事で。
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Category 認知症

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